漁師まちで生まれた、祈りのかたち
- 歴史
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産のひとつとして2018年夏、世界文化遺産に登録された「﨑津集落」。天草下島の深く入り組んだ羊角湾のほとりに広がる静かな港町です。
このまちはかつて、天然の良港として知られ、多くの産物や文化が行き交う場所でもありました。そのひとつが、南蛮文化とともに伝来したキリスト教です。16世紀の半ばに天草各地でキリスト教が布教されたのと同じ頃、この界隈でも多くのキリスト教の信徒が誕生。その後、250年にわたって続いた禁教の時代にも、信仰の火が途絶えることはありませんでした。のちに「潜伏キリシタン」と呼ばれるようになった人々はさまざまな工夫を凝らし、厳しい弾圧の目をかいくぐったといいます。
昔から住民の多くが漁業を営んでいた﨑津集落では、隠し持っていたロザリオやメダイのほかに、アワビやタイラギといった貝殻の内側に浮かび上がる模様を聖母マリアに見立てるなど、漁村特有の信仰形態が育まれました。仏教や山岳信仰、神道などとの共生も﨑津集落の特徴です。集落の守り神でもある「﨑津諏訪神社」も、潜伏期のキリシタンが密かにオラショ(祈りの言葉)を捧げた場所のひとつです。神社に向かって手を合わせ、周囲に聞こえぬよう「アンメンリウス」と唱えることで、神道を信仰しているように装っていたそう。天照大神を聖母マリアに見立てたり、漁業の神として知られる恵比寿像を「でうす様」として崇拝したなどの言い伝えも残ります。
山手の斜面にある共同墓地に目をこらすと、十字架のある墓石と仏教のお経が書かれた墓石が並んでいるのがわかります。互いの信仰に敬意を払い、共生し合うこの地の人々の暮らしぶりを表してもいるようで、不思議とやすらぎを覚えてしまう光景です。
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